衆議院議員 福島2区(郡山市、二本松市、本宮市、大玉村
2006.06.15

宏池会 「国家の戦略を考える」

宏池会発足から来年で五十年。半世紀に及ぶ歴史の中で宏池会は保守本流を貫き、池田勇人、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一の諸先輩を総理大臣に送り出した。 わが国と国民の全体の利益を考え、国際的な平和主義に立って時代の要請を的確にとらえ、良き伝統を守りつつ進歩を求めて政策判断を下すことこそが保守本流の在るべき姿であり、歴史の流れを見据えながらわが国の重要な舵取り役を担ってきた。

五年に及んだ小泉政権と十五年に及んだデフレ経済が終焉の時を迎えたいま、宏池会は保守本流としてわが国の改革を担っていく決意を新たにするとともに、ポスト小泉、ポスト・デフレ経済をにらんだ新たな政策の有り様を提言する。

提言は、「人口減少社会における経済の活力の維持・強化と財政健全化への道筋」「いわゆる格差社会への対応」「新たな外交政策の展開」「政治の意思決定の明確化」の四つの柱で構成、持続的な社会保障制度の構築、少子高齢化対策、教育改革など喫緊の課題を包含した大括りなものとした。

人口減少社会における経済の活力の維持・強化と財政健全化への道筋

I.経済の活性化

1.人口減少社会と需要縮小の危機〜目指せ!「3%成長」〜

人口減少社会への突入
  • 生産年齢人口に続き総人口も減少、出生率向上での対応に限界
需要縮小の危機に立ち向かえ
  • 内需拡大に限界:脱内需振興
  • 海外市場に着目:輸出促進、外国人観光客誘致
  • 国際競争力強化:21世紀をにらんだ新殖産興業戦略
  • 適切な金融政策運営を期待
強い経済を
  • 日本経済は15年間の長期低迷期を脱し、3つの過剰も解消。経済は好循環へ
  • イノベーションを基軸に一人当たり実質3%程度の成長を目指し、強い経済をつくる
  • 持続的な社会保障制度の構築、少子化・子育て対策などにも寄与

2.イノベート・ジャパン

研究開発〜世界最先端の技術を創る〜
  • 政府の研究開発投資の充実
  • 国家プロジェクトの推進:「国際競争力強化」特別枠の強化
  • 産学官連携の本格的共同研究の推進
人材・教育〜世界一の人材を育てる〜
  • 基礎学力の充実、教員の質の向上
  • 研究・企画・経営能力のある「強いドクター」の育成
  • 教育における産学連携の推進
  • 企業における高齢者・女性の活用の推進
東アジア経済圏の創設〜国際分業ネットワークの確立〜
  • 総合的な交通ネットワークの整備
  • 競争力強化を重視した金融行政の推進
  • 海外からの優秀な人材の受け入れ:「アジア太平洋研究所」の創設
  • 安心して投資できる環境の整備
世界一を狙えるIT産業政策の確立〜ユビキタス情報時代の仕組みづくり〜
  • ・IT投資が経済成長の新たな原動力
  • 物流産業におけるICタグ
  • 自動車産業における自動車と通信の融合
  • デジタル家電を中心とするユビキタス技術
知財立国へ〜知識集約型先端産業の創造〜
  • 知的財産は国富の源泉
  • コンテンツ、ゲーム、ロボット産業などの育成強化
中小企業の再生・創生
  • ものづくり産業、匠の中小企業を後押し
  • 日本経済を支える中小企業の後継者を育成
「日本ブランド」の創造
成長力、競争力のある世界に貢献する医療産業を創成
  • 日本を中心とした「東アジア医療圏」の形成
  • ネットワーク化、先端技術を成果につなげる体制の確立
農林水産業の新たな可能性の追求
  • 経営マインド、経営能力のある担い手農業者を支援
  • 農業の輸出産業化を促進
  • バイオマス/エタノール用等の農業生産の推進
  • 種苗、地域ブランド等農業生産分野における知的財産保護の総合戦略の推進
国際観光戦略の強化
  • 地域の伝統・食文化等の地域資源をネットワーク化、その魅力を海外に発信
  • 旅行業者、地域関係者の取り組みと人材育成を推進

II.財政再建

1.財政の現状と悪化要因

財政は先進国中最悪の水準
  • 基礎的財政収支(PB)は改善しているが、債務残高がさらに肥大化
  • 財政再建は現役世代の当然の責務
1990年度以降の財政悪化の要因
  • 国債残高は約375兆円増加(166兆円→542兆円)
  • 歳出増加(約129兆円):
      ▼景気対策に伴う公共事業費増大
      ▼高齢化進展に伴う社会保障費増大
  • 歳入減少(約142兆円):
      ▼景気対策に伴う減税実施
      ▼資産デフレによる税収低迷

2.財政健全化への道筋

基礎的財政収支(PB)の黒字化
  • ・2010年代初頭までPB均衡〜与党方針
債務残高GDP比引き下げ
  • わが国財政の信認維持のため、債務残高GDP比も安定的に引き下げる努力
  • 長期目標は、経済成長、金利見通しを固めに設定

3.歳出・歳入一体改革の取り組み

歳入と歳出面の取り組みを一体的に行う
  • まず歳出について、聖域を設けず徹底的に見直し、削減を図る
  • 公共サービスを支える「社会の会費」としての税負担増の可否
  • 消費税率引き上げ分の使途を社会保障に重点化するなど歳入面の改革も
  • 消費税導入に伴う所得税の累進課税の見直し
  • 歳出削減、消費税率引き上げ等に関する工程表を国民に分かりやすい形で提示
財政改革への取り組み方を、国民の納得のいくように説明
  • 増減税の判断を政争の対象にせず、国会審議を徹底

いわゆる格差社会への対応

I.個人に着目した格差

1.格差拡大の要因

日本のジニ係数は1980年頃から緩やかに上昇
  • 米国、英国よりは低いが、独、仏より高い
もともと格差が大きい高齢者の割合の上昇や世帯規模の縮小によって「格差が広がったように見える」との指摘も事実だが、以下の要因が格差拡大の方向に作用
  • 土光臨調以降の経済構造改革、規制改革、経済の効率化等
  • バブル崩壊後のリストラによる正規社員新規採用抑制、非正規社員(パート、派遣社員、フリーター)の増加、成果主義賃金の導入、ニートの増加、等
国民は「実態以上に格差が拡大した」と実感
  • 若年層を中心とする非正規社員の増加は、将来の格差拡大を予想させる
  • デフレ下での名目賃金の低下は同世代・同業種間の格差を生みやすい

2.チャレンジの意欲、再チャレンジの機会を!〜若年層の格差是正〜

格差拡大回避のために持続的成長を確保:経済構造改革の更なる推進
格差の固定や、経済活力・社会の安定を損なうような格差は是正
  • 派遣社員、フリーター、ニートに再挑戦の機会(正規社員化の推進)
    1. 教育・職業訓練による技能・技術・知識のレベルアップ
    2. 企業の中途採用の促進
    3. 紹介予定派遣、トライアル雇用の拡充、短時間正社員の活用
    4. ものづくりの技術継承の観点から行き過ぎた派遣・請負の活用を是正
格差を固定しない機会の平等の確保とチャレンジの支援
  • 平等な教育の機会の確保(奨学金の拡充・税制支援、公立学校の質向上等)
  • 起業の支援(金融、税制、人的ネットワーク等)
  • チャレンジに失敗した場合のセーフティーネットの整備(政策金融の活用等)
若年層の格差是正は、少子化対策にも寄与
真の弱者のためのセーフティーネットの確保
  • 所得の低い高齢者、障害者、母子家庭など真に必要な生活弱者を支援

II.地域の経済力の差

1.格差拡大の要因〜地域の経済力の差に拡大の兆し〜

再配分方式で国土の均衡ある発展を志向した国土政策により県民所得の格差は縮小
  • 国土政策の主眼は、過密・過疎の解消、東京一極集中の是正等
デフレ脱却の過程で以下の要因から地域の経済回復に遅れが生じ、全体として回復しつつも、地域の経済力の差に拡大の兆し。地域の産業構造の違いが景況感に影響。
  • 低賃金を求めての製造業の空洞化
  • 農業等の地域産業の停滞
  • 公共事業の縮小
  • 大都市圏中心の民間主導による経済再生

2.再配分型から自立型の地域活性化へ〜地域の自信、誇り、活力が明日の日本の活力

国全体としての国際競争力の強化と、地域の自立による均衡ある発展を確保
  • 個性と特色を生かした地域資源の活用、地域競争力の強化
  • 異業種・地域の広域連携による競争力の強化
大都市圏は、広域的観点を重視し、世界最先端を目指す
地方は、地域の潜在力を最大限活用し、個性輝く美しい地方を再生
  • 多様な都市機能を集積するコンパクトなまちづくり(コンパクト・シティ等)
都市・農村の共生・対流による過疎地域の活性化
  • 美しい日本の復興、都市にはない「田舎暮らし」のゆたかさを地域の資源に
地域間競争の公平を確保するための条件整備
  • 道路網、空港、港湾等の総合的交通インフラ整備の推進
国内回帰・競争力を強化するリーディング産業の地方立地を推進
  • 国際潮流を先取りした産業立地とインフラ整備の戦略的推進
交流人口を増やすため外国人にとっても魅力のある観光地の整備
  • 官民のパートナーシップの強化
  • エコツーリズムの振興
  • 地域の伝統・食文化等の地域資源のネットワーク化
農業の活性化
  • 地産地消、食育・食文化の推進、消費者との多様な連携
  • 輸出促進
地方分権の推進〜自立のビジョンと戦略的取り組み〜
  • 住民に密着した市町村を基軸に推進
  • やる気と意欲のある地域を積極支援

新たな外交政策の展開

I.国家戦略と外交構造改革

21世紀日本の外交には、明確な国家ビジョンに基づいた戦略の策定が不可欠
国家戦略の基礎は「国益」。平和と安全の維持、自由貿易体制の堅持、自由と民主主義、人権の確保、法の支配を基本に、積極的な外交の展開が必要

II.世界潮流と21世紀日本

1.情勢認識

アジア各国との共存・共栄を図るには、各国との安定的な関係の構築が必要
  • 中国等東アジア諸国との関係安定化は、21世紀日本の重要課題
環境・エネルギー問題への対応には「アジア広域」という視点が不可欠
国際情勢の現実を直視し、ユーラシア大陸において創造的な外交を展開すべき

2.21世紀日本の課題と役割

「東アジア共同体」構想の推進
  • 共同体形成に向けてASEANなど東アジア諸国との連携強化
  • ・ASEAN+3や東アジア首脳会議(EAS)の枠組みは共通意識形成を促進
  • 共同体構想の追求は、テロなど脅威への対処能力をも向上させる
信頼醸成に向けた未来志向の関係強化〜日中関係
  • 歴史認識の共有:可能な限り客観的な事実の認識を共有。例えば「靖国」等
  • 日中関係の構造改革:新たな次元※で安定した関係を構築
    (※)複眼的思考に基づく「多面的な中国」を認識、理解する必要性
  • 長期的視点かつ現実的思考を備えたリーダー
戦略的連携を基本に同盟関係を堅持〜日米関係
  • 日本にとって米国は最も重要な同盟国
  • わが国防衛力の要は日米安保※
    (※)在日米軍再編、駐留経費問題は、国民の理解を得つつ推進
  • 弾道ミサイル防衛能力向上のため、日米共同開発を推進
日韓・日朝関係
  • 北朝鮮には「対話と圧力」が基本。拉致問題解決なくして国交正常化なし
  • 韓国との竹島問題については、国際司法裁判所の活用も含め対処
複眼的なアジア外交の推進〜南西アジア・ユーラシアとの関係強化
  • インドとの戦略的関係を重視
  • ・9.11テロ以降存在感を増す中央アジアとの関係構築

3.「21世紀日本・国家戦略会議(仮称)」の創設

脱・対症療法的外交〜創造的な外交の展開
  • 激動する国際社会の中で日本が目指すべき方向をビジョンとして提示
総理大臣に対する外交指針の建言機関※を創設

(※)「21世紀日本・国家戦略会議(仮称)」

政治の意思決定の明確化

I.改革の必要性

人口減少による需要縮小、グローバル化の進展といった大きな状況の変化の中で、品格ある国家としてわが国が今後とも繁栄を続けるには、政治のリーダーシップを強化するとともに、その下で強力かつ効率的な行政システムを確立することが重要。

II.改革の方向

1.政と官の役割分担の明確化

政治は、国民に対し、国家のビジョンや国の在り方、世界に誇れる日本の姿を明確に示し、改革に向けリーダーシップを発揮
行政は、政治のリーダーシップ下、省益によらず、縦割りの弊害をなくし、国民に奉仕する活動を強力・効率的に実施

2.与党の権限・責任の明確化

議院内閣制下の「政治主導」とは「内閣主導」
  • 大臣、副大臣、政務官を通じて政治のリーダーシップを発揮
与党との連携強化
  • 政務調査会について十分な議論を確保するとともに、大胆な改革を進められる意思決定ルールを確立
  • 与党内の人事登用についても適材適所を徹底

3.国会審議の活性化

与野党間の政策論議を充実し国会審議を活性化
衆参両院の役割分担・機能の分化を推進
  • 参議院は決算審議を重視し、予算審議を簡略化
議員立法の積極活用

4.内閣の政策立案機能の強化

内閣主導のリーダーシップを確立するためには官邸機能の強化が必須
総理指示の下に働ける十分な数の政治家、官僚、有能な専門家を官邸に配置
  • ポリシーユニット:政治家の下に各省選抜の国家戦略スタッフを置く
  • 各省との情報・意思の共有を図るため、官邸に各省幹部クラスが常駐
情報収集・分析・伝達機能の強化〜インテリジェンス組織の整備〜
  • 内閣に、必要な権限を保持した、情報収集・分析・伝達を行う組織を整備

5.日本型の効率的行政システムの確立

政府の役割:民間ができない分野を補完する「小さな政府」
  • 総論、哲学の明確化
  • 「政府部門が関与する必要があるのか」等の視点からの見直し
  • 民間部門の創意工夫がより生かされるような規制緩和の推進
国の行政組織の改革〜強力かつスリムな組織に〜
  • 地方組織は、公権力行使を除き独立行政法人化、民間委託等
  • 霞が関は、官学・官民の人材交流を促進、採用・給与システムも整備
  • 各省組織も民間並みに大枠を定め、その枠内で機動的・弾力的に組織変更を容認
  • 内閣官房に一元的な人事制度担当部局※を設置
    (※)人事院・総務省人事恩給局・行政管理局を統合
地方も、国に準じ行革・スリム化