衆議院議員 福島2区(郡山市、二本松市、本宮市、大玉村
2005.06.28

対談 「日本の神話」は日本人の心 現代を支える「芯」

「古事記・神代」連載開始を前に

イザナギノミコト、イザナミノミコト、日本武尊、天岩戸、ヤマタノオロチ……誰しも知っている、でも正しく理解されていると、果たして言えるでしょうか。日本神話・古事記(神代)は、日本人の心であり、私たちの古代ご先祖が発見し伝承してくれた宝物です。子孫がみんな、ずっと幸せに生きていきますようにとの、ご祖先の慈愛の祈りそのものであり、知恵や教え、真理がこめられたものなのです。ノーベル平和賞を受賞したケニアの環境天然資源副大臣、ワンガリ・マータイさんが世界に紹介した日本語の「もったいない」が 広範な運動として展開されつつあります。でも、日本人が「神話」を忘れかけていること、それはとても「もったいない」のではないでしょうか。

「りぶる」では、来年(平成18年)4月号から「日本の神話はこんなに素晴らしい」というメッセージを込め、作家で日本神話研究家の出雲井晶さんにお願いして「古事記・神代」の連載をスタートします。それにちなんで、出雲井さんと自民党広報本部長の私が、日本神話(古事記・神代)について、さまざまな視点からお話させていただきました。

「日本の神話」は日本人の心 現代を支える「芯」

立党50年、新たな一歩を踏み出すにあたって

根本匠:

今年(平成17年)は、自由民主党立党五十年です。戦後50年間、日本を担って国民の皆さんに日本の発展の責任を果たしてきたと自負していますが、私たちとしては、50年を踏まえて新たな第一歩を踏み出していきたいと考えているところです。

出雲井晶:

立党五十年、本当におめでとうございます。

根本:

ありがとうございます。そこで、日本とはどういう国なのか、あるいはこれからどういう方向を目指して進んでいくべきなのか。日本を振り返り、アジア等を振り返って、新たな次の時代への挑戦をするという、まさに歴史的なターニングポイントにあると思います。その意味で、日本の歴史をもう一度振り返る、考えるというのは非常に大事だと思うんです。ですから、先生が研究をなさっておられる日本神話、古事記・神代に光をあてるという活動は非常に大切なことだと思っています。

出雲井:

ありがとうございます。古事記は、わが国の一番古くて、一番尊い伝承文化だと私は思っておりまして、今はそれが見事なまでに消されております。「日本の神話」、これを正しく知っていただけましたら、自分に対する自信、国家に対する誇りが持てるようになると思うんですね。

神話を読み、次代に伝える これも「もったいない運動」

根本:

私たちの先祖である古代の人たちは、本当に素晴らしいものを残して下さったと、私も思っております。

出雲井:

その素晴らしいご先祖さまのDNAが、今に生きる私たちにも、ずっと続いているんです。よく昔々の大昔に、これほどすごい真理を発見して伝承してくださったと思います。

あちらこちらで、日本の神話を話させていただいているのですが、初めて聞くとおっしゃる方が少なくありません。本当にこんなにもったいないことはないですね。

根本:

確かに、子供たちに聞くと、自分に自信を持っている子どもたちの比率が、日本はアメリカやほかの国に比べると非常に低いんですね。それから先生おっしゃるように、日本は世界的に見ても独自の文明圏・文化圏をつくっていますね。2600年の連綿たる歴史がある。ところが、歴史的には日本はどうだったのか、そもそも日本人とはどういう民族だったのかという意識が薄れていますね。

出雲井:

はい。本当にもったいないことだと思いますね。ポーランドのワルシャワ大学日本学科教授で「古事記」「日本書紀」のポーランド語訳も出されているヴイェスワフ・コタンスキー博士は「地球上に、日本神話に書かれてある大宇宙観、真理を超えるものは未だ発見されていない」とまでおっしゃっています。

人間は神様の子――12、13歳までに神話にふれたい

根本:

ところが、今の日本人は、あまり日本神話を読んでいないというか、ギリシャ神話とか聖書は読むけれども、神話というのは子供の頃絵本で見た範囲で卒業している感じですね。

出雲井:

日本人は、もともと、すごいネアカの民族だったんですね。ご先祖さまは「人間は神様の子どもだ、彦(日子)だ、姫(日女)だ、八百万の神様だ。イザナギ・イザナミの神様の子孫だ」と、きちっと書いてくださっているんですね。それは、みんなが幸せに暮らす、仲良く暮らすという、目に見えない神様の理想世界を、この目に見える世界にもつくりましょうという古代のご先祖さまの壮大な理想なのですね。

ところが、現実には外国からもモノの豊かさだけを追求していると言われちゃっているんですね。イギリスの歴史学者、アーノルド・トインビーさんも「12、13歳頃までに神話を教えられていない国民は、例外なしに滅んでいる」と言っています。ですから「古事記・神代」=「日本の神話」を来春から「りぶる」で連載企画として取り上げていただけるということで、大変に荷の重いことですが、とても有難いと思い、受けさせていただこうと決心しました。

「保守」は歴史・伝統を重んじ かつ、改めるべきは改める

根本:

自民党は「保守」の基盤に立っています。保守というと、時々、守旧に間違えられるんですが、本来、日本の、あるいは地域の歴史や伝統や文化を大切にして、常に改革すべきものは改革する、それが保守政党の魂なのですね。それは日本の国柄を大事にするということですから、いま先生のおっしゃられた神話を大事にするということにもつながると思うんです。歴史や伝統という大切なものは守りながら、改革すべきものは改革する、それが自民党だと思っています。

出雲井:

「東京裁判史観」が特に最近話題になりますが、もちろん、これは間違いです。しかし、悪かった、間違いだったと批判して、それだけで片づけちゃっている部分が多いんですね。

根本:

そのへんの歴史がきちんと伝えられていない、学校でも教えていないということですね。

出雲井:

私が知っている限りでは、昭和の歴史などというのはほとんど教えられておりません。古代史、神話、そして近現代史がそうなってしまっているんですね。

根本:

自分たちの歴史を学んで、歴史観をしっかりと確立すること、それは自分たちの「軸」を持つことだと思うんですよ。

大切にしたい神話との出会い 作っていきたい伝承との接点

出雲井:

根本本部長様の、神話との出会いはどんなものでしたか。

根本:

小学生の頃に知っていたのは、天の岩戸やイザナギノミコトの話ですね。政治家になってからは、地元(福島県第2選挙区=郡山市、二本松市、本宮町ほか)を歩きますと、神社で春とか秋に例大祭があって、伝承されている儀式や踊りを見ますと、日本の歴史を感じますね。そして、先祖を敬おうとか、兄弟姉妹仲良くしようとか、夫婦相和しとか、人間としての基本的な価値観が神社には残っていますね。

神話には直接結び付きませんが、平成13年に福島県で未来博という博覧会を開催したのですが、博覧会が終わっても続いているイベントがあります。地域に昔から語り継がれた民話、それを方言で語り部がしゃべるという催しです。

出雲井:

いいですねぇ。

根本:

NPOもできて、地元の女性のアイデアで「民話語り部大会」を立ち上げたんです。JRの郡山駅にも「民話の語り部コーナー」ができて、定期的に開いています。

出雲井:

古きよき文化を次の将来に伝承しようという取り組みであり、埋もれていた潜在的な地域や文化的な神話の発掘にもつながることでしょうね。

個性や特性を守る 地域の拠りどころに

根本:

僕が生まれ育った郡山には、伊勢神宮の天照大御神の御分霊を勧請して建立され「東北のお伊勢さま」として尊崇を集めてきた開成山大神宮や、大和朝廷による陸奥国経営の根拠地に国家の安泰を祈願して建てられ、江戸時代の学者、安積艮斎の系譜に繋がる安積國造(あさかくにつこ)神社(じんじゃ)という古い神社があります。こういうところが地域のアイデンティティ、あるいは地域の核になるんですね。神社を通じて古きよき伝統が維持される、あるいは地域の個性や特性が維持されるということだろうと思いますね。

出雲井:

皆さん、何かよりどころがほしいという気持ちがあるんですね。

この4月29日に「日本の神話伝承の会」の設立記念大会を明治神宮記念会館で開催したのですけれど、1800人ほど集まってくださいまして、例えば「モラロジー」とか「キリスト幕屋の会」とか「健康食の会」とか「倫理研究所」の方ですとか、私が知らなかったいろんな会の方もたくさん来られました。ご先祖が語ってくださったのが神話で、宗教じゃありませんからね。その方々が、日本の神話は知らなかった、こんなに面白いと思わなかったとおっしゃるんです。

根本:

一見突拍子もないと思うかもしれない話もありますが、堀り下げていきますと、みんな深い真理が込められていますね。

出雲井:

例えば、ニニギノミコトがコノハナサクヤヒメと結婚されて一夜で身ごもられる。すると、一夜で身ごもるなど、あるはずがないとニニギノミコトが言われます。それで、天神(あまつかみ)のみ子であればお生まれの時幸せがおとずれますと、産屋を土で塗り固め、火を放った中で天神のみ子がお生まれになるのです。「全く荒唐無稽な話だ」ということで片づけてしまう方もいますが、そうじゃないんですね。魂というのは、火にも焼けない永遠生きとおしのものなのだという深い言霊が秘められているのです。

根本:

「神話は日本人の心」ということを先生はおっしゃられていますが、現実は、読んでいないというか、読む機会が少ないというか、神話に触れる機会が、大人も子供も少ないですね。

出雲井:

文明が行き着くところまできている今、これをしっかりと支えるのが日本の神話の文化だと思っております。

根本:

今、子供たちに日本の神話を教えるとすると、学校もありますし、地域社会もありますね。地域社会では民話の語り部運動のようなものが出てきています。最近、私が多少希望を持っているのは、ふるさと回帰ではありませんけど、日本回帰みたいな動きが出てきているのかなということですね。いい意味での保守回帰が20代、30代に出てきているような気がするんです。

出雲井:

そうですね、私もそのように感じています。

縦の真理・哲学であり 連綿とした天地の理法

根本:

アメリカやキリスト教の世界は神がいる。だからいろんなことが起こっても神に対する畏敬の念があって、秩序が守られるとかバラバラにならないという言われ方をされます。一方、日本はそれがないと言われますね。先生のお話を伺って、そうではないということが分かりました。

出雲井:

「天地の理法」に則って、それを伝承して、日本という国はできたのですから。

根本:

だから国にきちんとした芯があるということですね。

出雲井:

はい。そうなんです。縦の真理がある。

根本:

縦の哲学があるわけですね。時代を超え、連綿とした哲学ですね。そして、日本の神話の中に本質が込められているということなのですね。

出雲井:

神話には、最初に「漂える国を修め理(つくり)固め成せ」とあって、それから日本の国は始まっております。その根っこを消されたから、今みんな漂っちゃっているわけです。

でも、先日、浜松(静岡県)の幼稚園の父母にお話に行ったんですが、びっくりしました。ちょうど私の孫のような若い方たちばかり300人ぐらいでしたが、おしまいに「皆さん、涙流して聞いていました」って園長先生がおっしゃってくださいました。だんだんそういうことになってきましたね。今度、福井の中学に行くんですが、少しずつそういうふうに、少しずつ変わってきています。

根本:

いまは、その意味では一番大事な時期だと思いますね。

お腹の中にいるときから詠み聞かせてあげてほしい

出雲井:

私もどんなお話したらいいんだろうかと思いましたけれど、いつも思っていることを申しまして、私が書きました『にっぽんのかみさまのおはなし』という絵本にふれて、ダニエル・フリーマンというアメリカの精神医学者のことばを紹介しました。フリーマンさんは、日本青年精神医学総会で「子供がお腹の中にいるときから、できるだけ小さいときから、同じ話でいいから、日本の神話を読み聞かせやってほしい」と話されたんですね。「日本の神話と日本の子育て」という講演の中でしたが、私はびっくりしました。

子供が学校や幼稚園から帰ったときに、お母さんが「お帰り」と迎えてあげるのが一番大切なことです。寝るときも安心して寝られるように、ご先祖から伝わった日本の神話などを繰り返し読んであげますと、幸せになると思います。

根本:

読み聞かせがいいですね。最近も読み聞かせ運動とか、朝の読書運動が広がっていますから、徐々にそういう動きが出てきているんじゃないかなと思いますね。

出雲井:

そうですね、ほんとに。

根本:

それを、先生が先頭に立ってやってくださっているのは、大変ありがたいと思います。

出雲井:

ありがとうございます。よろしくお願いいたします。きょうは、本当に幸せでございました。

根本:

ありがとうございました。(平成18年)4月号からの「日本の神話」の連載に期待し、楽しみにしております。