衆議院議員 福島2区(郡山市、二本松市、本宮市、大玉村
2002.01.15

新しい政策課題と政治家の役割 - 4

金融危機で功を奏した「政治主導」の政策形成

4.政策形成の在り方と政治家の役割

(1)「官僚主導」の政策形成への評価

前述したように、「1955年体制」のもとで一貫して政権を担った自民党は、官僚機構をシンクタンクとして活用、日本を世界第2位の経済大国へと押し上げてきた。「政治主導」の下で官僚が政策を企画・立案し、自民党の政治力で実現を図ってきたわけある。

官僚は政策を企画・立案することに関しては優れた技術と知識を有している。「政」が政策の実施主体としての自覚と責任を持ち、それを輔佐する「官」との間に一定の秩序と緊張感があった時期は、こうした政官の連携は円滑に機能した。

特に、重要な経済政策については、官僚機構の頂点に君臨していた大蔵官僚が必ず知恵を出し、政策形成過程に深く関与してきた。細川連立政権当時の「国民福祉税構想」のように行き過ぎた「官僚主導」は論外だが、かつては官僚にも自分たちが国を支えるのだというという気概があったし、強い使命感を持った有為な人材も大勢いた。

一方、政治家にも、官僚たちの期待に応え「決断できる」人材がいた。

しかし、1990年代に入ると、バブル経済の崩壊や「55年体制」の終焉など予想もできなかった事態に直面する中で、「政」と「官」のモラルハザード(倫理観の喪失)も顕著になってきた。

その典型例が金融機関の不良債権問題である。

大蔵官僚は、単独で対処できないまでに事態が深刻化してもなお、「景気が回復し、地価が上昇すれば解決は可能」と、景気循環論に頼った甘い見通しを根拠に問題を先送りし、政治家も「金融は大蔵省の専門分野」と官僚任せにしてきた。官僚の問題先送り体質と政治家の怠慢が、不良債権の抜本処理を大幅に遅らせたのである。

この不良債権問題は、縦割り行政の限界をも浮き彫りにした。省庁横断的な政策テーマを縦割り組織に縛られる「官」の主導に委ねることはでない。「政治主導」による政策形成は当然の帰結なのである。

なお、こうした政策テーマに私たち自民党の若手政治家が「政治主導」で取り組み、成功を収めた例として「金融再生トータルプラン」(1998年)などがあることは、繰り返し述べてきた。

(2)「政治主導」が求められる理由

日本は今、明治維新、第2次世界大戦の終結(終戦)に次ぐ「第3の開国の時代」に差し掛かっている。戦後50有余年を経て、経済の様々なシステムが制度疲労を起こし、その立て直し−構造改革−が急務となっている。

これらの問題の解決に向けた処方箋を示し、日本が進むべき方向を具体的な政策として提示する役目は、本来、政治家の責務である。

日本の官僚はたしかに優秀だが、世論に対しての感度という点では、逆立ちしても政治家には敵わない。フットワークの点でも同様である。常に有権者を視野に入れ、最前線の現場の声を聴いて歩かねばならないのが政治家の宿命であるからだ。

「政治主導」の時代の政治家にとって重要なことは、自分の頭で政策を企画・立案する能力を身につけることである。優秀といわれた官僚の手に負えない重要な政策課題の主導権を掌握するには、政策について官僚依存の旧来型の政治家とは比べものにならないほどの猛勉強が必要である。と同時に、「構想力」「バランス感覚」「説得力」も備えていなければならない。

これらは、官僚主導の「官高政低」を打破し、政治家が政策のリーダーシップを執る「政高官低」に変える必須条件なのである。

(3)在るべき政治システム−真の「政治主導」とは−

議院内閣制の下での「政治主導」は、本来「内閣主導」であるべきだ。特に国家戦略のような重要政策を作り上げていく場合、司令塔の存在が極めて重要で、総理官邸を強化する必要がある。

橋本政権時代から取り組んできた行政改革にも、そうした狙いが込められており、2001年1月からの中央省庁再編では、総理官邸の機能強化を図るとともに、各省庁に副大臣や政務官として多数の政治家を送り込み、「内閣主導」の布石が打たれた。

システムは整ったわけだが、新体制移行後の政権は、対照的な対応を示した。まず、森政権は政策を与党の自民党に全面依存、「内閣主導」の掛け声とは裏腹に、自民党の政策決定責任者である政調会長の権限がかえって増大する形となった。

これに対し、大統領型のリーダーシップを志向する現在の小泉政権は、官邸機能の強化という中央省庁改革の成果をフルに活用し、首相が直接指揮を執る形で財政構造改革や金融機関の不良債権処理、特殊法人改革などに取り組んでいる。

小泉純一郎首相には、政治のリーダーに必要な資質、つまり「気迫」「気概」「勇気」のいずれもが備わっている。しかし、こうした首相のリーダーシップをさらに強化するためには、さらなる仕組みが必要である。

私は、総理官邸の機能強化策として、政策の企画・立案・遂行能力を有する政治家を首相の下に数人付け、その補佐役として各省庁から選抜した有能な官僚を配置する「国家略スタッフ」制度の導入を提案したい。

従来の、内閣官房長官、官房副長官だけでは不十分だ。政策に精通した有能な政治家が首相を直接支え、そして官僚をきちんと使いこなせる体制を構築する必要がある。政治家が有能な官僚を使い切る体制が整えば、政治家は今の何倍もの仕事をこなせるのである。

官僚に代わる「有能」なスタッフとして、小泉首相のように民間人のブレーンを積極的に登用するケースもあるが、彼らはアイデアを政策として実現するノウハウを持っていない。政策を実現する力は、政治家には敵わないのである。

この点は、政策形成のメカニズムを熟知し、政治家に人脈のあるブレーンがホワイトハウスに入る米国とは明らかに異なる。

小泉政権が目指す構造改革への肉付けは、その実行に責任を持つ政治家の手で行うべきであり、こうした政治システムが確立されて初めて「政治主導」の統治メカニズムが確立されるのである。

(4)与党の役割と政治家の役割−改革のポイント−

与党の自民党の政策決定メカニズムは、「55年体制」の下で合理的な仕組みが構築されてきた。

まず、各省庁ごとの政策に対応する部会があり、そこで議論し決定された政策は政務調査会で審査され、党の最高意思決定機関である総務会での決定を経て党としての決定事項となる。

また、省庁横断的な政策テーマに関しては、特命の委員会を設置して対応してきた。

1997年秋から1998年秋にかけての金融危機の際には、首相経験者を揃えた「金融安定化本部」や、年功序列の壁を取り払った「金融再生トータルプラン推進特別調査会」を臨時に立ち上げ、官邸と緊密に連携を図りつつ「政治主導」で危機を乗り切った。

目下、小泉首相の下で石原信晃行政改革担当相が陣頭指揮を執る特殊法人改革問題でも同様の手法が採られ、党の行政改革本部が小泉改革路線をしっかりと後押ししている。

だが、こうした自民党の政策決定メカニズムも、政策の調整と決定が連立与党協議に委ねられる連立政権下では変容せざるを得ない。その副作用として、政策決定責任者への権限の集中で、テーマによっては党内におけるオープンな議論が封じ込められる可能性があるとの指摘もある。

連立政権下での政策形成の在り方については、今なお研究の余地があるが、この8年間の思考錯誤から得た教訓は、政策形成過程における丁寧な議論と透明な手続き、そして相互理解を深めるための努力が極めて重要であるということだ。今後の課題は、政党の主体性と連立合意をどうバランスさせていくかである。

ただ、政治のシステムがしっかりしても、政治家個人の能力が向上しない限り、システムは円滑に機能せず、「絵に描いた餅」に過ぎない。そうならぬよう、政治家自身が研鑽を積むことが何よりも求められるが、個人の力に限界のある部分については、単に「官」の知恵を活用するだけでなく、自前のスタッフも育てていかなければならない。

しかし、その現状は甚だ心許ない。国会議員1人につき1人分の政策秘書しか認められていないのである。議員1人に20人前後のスタッフがいる米議会とは制度が異なるので、比べるべくもないが、1人では明らかに不足である。

特に、1人しか当選しない小選挙区の政治家(衆議院議員)は、あらゆるテーマに取り組む必要があり、「自前の政策ブレーン」の形成は急務。議員共同の政策スタッフであり、シンクタンクの役割も果たしている自民党政調事務局の機能の拡充・強化も課題である。

また、各省庁に入り込んだ副大臣・政務官と与党との連携の在り方をどう構築するかも今後の課題である。政府・与党の連携を強めていくためには政策のすり合わせが必要で、副大臣・政務官と与党の連携が政策実現を加速する力になる。

このほか、与党内の人事登用システムについても触れておく。自民党の人事システムでは、各派閥が人事の調整機能を果たしているが、当選回数の多い方からポストを割り振る順送りが目立ち、適材適所であるかという点でも疑問の余地がある。

政策本位の政治体制を目指すならば、「適材適所」は人事登用の必要十分条件であり、政治家個々人の適性や能力をより客観的に判断できるシステムを構築すべきであろう。

この点は、同じ議院内閣制の下で大臣コースと政党人コースの2コースに分かれている英国の人事システムに学ぶべき点が多い。

(5)議員立法の意義

最後に、議員立法について述べておく。

議員内閣制を採用している日本は、米国と異なり、政府(内閣)に法案の提出権がある。英国ほど強固ではないが、政府と与党が一体の関係にある状況下では、法案の作成と決定過程で「政治主導」が貫かれていれば、国会に提出される法案の80%は内閣提出の閣法でも構わない。

ただ、政策手段の多様化の1つとして、今後は議員立法を積極的に活用していくべきと考える。

議員立法には、大別すると3つのタイプがある。

1つは、「徹底討論型本格的議員立法」。法案の作成を政府に委ねることが極めて困難な場合の議員立法で、その代表例は「臓器移植法」だ。

脳死が「人の死」に当たるかどうかという死生観に関わるテーマを、与野党の垣根を越え、かつ政府や国民も巻き込んで国会で徹底的に議論、脳死を「人の死」と認め、臓器を提供したいというドナーの意思と、その提供を受けたいという患者の意思を尊重した、世界でも非常に厳しい法律を議員立法によって成立させたわけである。

2つ目は、「政治主導政策迅速型議員立法」。立法を政府に任せると、省庁間の縦割りの問題により法案作成に時間がかかる場合の議員立法だ。私の経験でも、内閣に任せると5年はかかるとされた法案を、議員立法により2年で成立にこぎつけた例(定期借家権法)がある。

3つ目は、「問題意識提起型(泡沫)議員立法」。議員自らある種の立法が必要な政策を議員立法の形で提案するもので、野党議員によく見られる。政府・与党への対案として示されるケースも多い。内容はバラバラ、多種多様で、基本的には成立しない。

以上、3つのタイプを紹介したが、直近の私の経験でも前通常国会において、本来、閣法で対応すべき案件−「金庫株」解禁など株式市場の改革−を議員立法で対処、また今臨時国会では児童福祉法の改正を議員立法の形で行うことを予定している。

いずれも、政策を迅速に実施すべきとの観点から議員立法化するもので、政策迅速化の要請からの議員立法はますます重要になっていこう。

その際、最も大事なことは政治家が政策を形成する意思、能力、発想力を持ち、成立に導けるだけの説得力と指導力が必要である。政治家がさらなる研鑽を求められる所以だ。

※本論文は、2001年11月19・20日に(財)日本国際交流センターによって開催された「グローバル・シンクネット東京会議」にて発表されたものである。