衆議院議員 福島2区(郡山市、二本松市、本宮市、大玉村
掲載 : 週刊東洋経済 8月4日特大号
2001.09.12

交付税制度を本来の役割に戻せ

  • 現行の制度には歳出を拡大させるインセンティブが内在。
  • 「中央依存型」の構造を地方の「自主・自立型」に変えていくべきである。
  • 「基準財政需要額」を一兆円縮減すれば、地方の赤字地方債も国の赤字国債も五〇〇〇億円縮減できる。

地方交付税制度改革について、地方自治体などから「交付税の減額は、絶対に行わないこと」(全国市長会議の決議)、「国の財政事情から一方的に交付税総額を一律的に削減することには、断固反対せざるを得ない」(町村自治権確立全国大会の特別決議)と反対の声が上がっている。

しかし、この改革の本質は、「地方の切り捨て」ではなく、地方の自立を促進し、地方財政の規律を回復することにある。政府が六月末に閣議決定した「経済・財政運営の基本方針」でも示されているように、「『個性ある地方』の自立した発展と活性化を促進する」ことは小泉内閣にとって重要な課題である。

地方自治が本来の姿を取り戻すためには、そこに住む人々が思い通りの行政ができるようにしなければならず、国の政策誘導手段としての色彩を強めてきた交付税制度を「中央依存型」から「自主・自立型」に変えていくのが小泉改革の狙いだ。

地方自治体に交付税を配分する交付税特別会計は、バブルの崩壊と長引く景気の低迷で税収が伸び悩む一方、景気対策などに伴う地方の歳出増により急速に悪化、同特会の借入金残高は四二兆五〇〇〇億円(今年度)にまで膨れ上がっている。

地方の財源不足は、これまで交付税特会の借り入れなどで穴埋めしてきたが、国・地方の財政の透明化と責任分担の明確化を図るため、今年度から国の一般会計からの特別加算と自治体の赤字地方債(臨時財政対策債)発行で補填することになった。

初年度は、過渡的措置として特会借り入れを併用するが、二年目からは特会借り入れをやめ、一般会計からの特別加算と赤字地方債などで全額を補填することにしている。

地方財政全体の財源不足額は、今年度が約八兆八〇〇〇億円。二〇〇二年度には約一〇兆九〇〇〇億円に拡大する見込みで、赤字地方債の発行も約一兆四〇〇〇億円から約三兆七〇〇〇億円に拡大する見通しだ。

地方自治体は、財源不足を先送りするために借金を重ねる、自転車操業のような財政運営を強いられているわけである。こうした状況から脱却するにはどうしたらいいのか。

後述するが、現行の交付税制度には、地方の財政規律を緩め歳出を安易に増大させるインセンティブ(誘因)が内在する。このような仕組みを見直す交付税制度改革は、真の地方自治を確立する上で不可欠であり、決して「冷たい改革」(鳩山由紀夫民主党代表)ではない。住民にとっても自治体にとっても自立を可能にする「温かい改革」なのである。

肥大化招いた「事業費補正」

ここで、地方交付税制度の仕組みに簡単に触れておく。

交付税制度の狙いは、全国約三三〇〇の地方自治体の財政力格差を是正し、すべての自治体で義務教育や警察、消防など標準的な行政サービス(ナショナルミニマム)の提供に必要な財源を保障することにある。

各自治体への交付金は、様々な係数などを使った複雑な方法で算出された標準的な行政経費として国が定めた「基準財政需要額」から、標準的な地方税収入見込み額に一定比率を乗じて算出した「基準財政収入額」を差し引いて求められる。

交付税の財源には、国税五税の一定割合(法定率分)を充当。所得税・酒税の三二%、法人税の三五・八%、消費税の二九・五%、たばこ税の二五%が国の一般会計から交付税特別会計に繰り入れられ、地方交付税として各自治体に配分される。

が、これだけでは賄いきれず、交付税特会が借り入れをしてやり繰りしているのが実情だ。特会借り入れは、前述のようにバブル崩壊後急増。地方財政も同様に悪化、今年度の地方財政の借入金残高は一八八兆円と一〇年前の二・七倍に膨らんだ。

地方財政の悪化要因は三つ。一つは、バブル期に端を発した地方単独事業の増大である。

右肩上がりの経済成長が続いたバブル期、地方交付税の財源となる国税収入も地方税収入も、ともに大幅に増加。こうした税収バブルを背景に特会借り入れを完済、「基準財政需要額」を大幅に引き上げるゆとりが生じた。これが歳出の拡大へとつながっていく。

この時期、地方の歳出の中で顕著に拡大したのは地方単独事業だ。一九八八年度から九三年度までの五年間の平均伸び率を見ると、社会福祉など一般行政経費の地方単独事業が八・〇%、投資的経費の地方単独事業は、その間に「公共投資基本計画」が策定されたこともあって九・九%と高い伸びを示している。

投資的経費の地方単独事業の典型例は「地域総合整備事業」だ。これには、自治体が計画的に行う公共施設などの整備事業の総事業費の七五%を地域総合整備事業債で調達、元利償還費の三〇〜五五%を後年度に「事業費補正」として交付税で面倒みる仕組みが設けられており、やればやるだけ交付税が増える仕組みが安易な歳出増を招く誘因になった。 「事業費補正」は、(地方が国の政策に付き合わされた側面もあるが)バブル崩壊後の景気対策でも多用され、地方の歳出は引き続き国を上回る速度で拡大していった。

投資的経費の地方単独事業は、九七年度から減少に転じたものの、今なおバブル期より高い水準を維持している。これが、バブル崩壊後も地方財政の悪化が継続、拡大した二つ目の要因だ。

地方財政悪化の三つ目の要因は、景気対策として実施された大幅減税である。バブル崩壊後、国・地方ともに税収は大きく落ち込み、地方消費税の導入など税の直間比率の是正が行われたものの、景気対策として実施された総額九兆円の大規模減税が収入不足に拍車をかけた。

以上、地方財政の悪化要因について見てきたが、「事業費補正」の歳出拡大インセンティブについては、「地方自治体が自主的・主体的に実施する地域づくりを支援するため」と説明されている。

だが、本来は地方の独自施策である単独の建設事業について、国が起債を許可、国の裁量で元利償還費を「基準財政需要額」に加算することで、国が誘導する事業を増やすほど交付税が増える仕組みを設けたことが交付税制度を水膨れさせた側面は否定できない。

事実、交付税が起債と結びついたことで、住民の「受益」と「負担」を全く考慮しない地方の「ハコ物」建設競争を誘発、地域間の財政力格差を調整しナショナルミニマムの確保に必要な財源を保障する、交付税制度本来の機能を逸脱しているケースも数多く見られる。交付税が事実上の「補助金」や「第二の公共事業」と化しているといわれる所以だ。

交付税制度を本来の姿に

次に、地方交付税制度の抜本改革策について提言したい。

この改革は、地方の独自施策について住民の「受益」と「負担」の関係を明確にしながら、地域が自らの選択と財源で効率的に実施していく仕組みに変えていこうというのもので、真の地方自治を確立、地方行政を住民の手に委ねるのが狙いだ。

そのためには、箸の上げ下ろしまで面倒みるような行き過ぎた政府関与と、地方の過度の交付税依存によりバブル期以降肥大化した交付税制度の役割を見直し、本来の役割に交付税制度を戻す必要がある。

改革の具体策として以下の三点を検討すべきである。

第一に、地方の独自施策である単独事業について、「事業費補正」の廃止などの見直しを行うよう求めたい。行政府の判断、裁量で内容が決められる「事業費補正」は、バブル期以前は小中学校や下水道などに限って実施されており、本来限定的であるべきなのだ。

第二に、国の地方への関与も必要に応じて洗い直し、関与に伴う「基準財政需要額」への算入について縮減などの見直しを行うべきである。 「基準財政需要額」に算入するということは、地方の一般財源である交付税額を確保する側面があることは言うまでもないが、その裏では国が一定の事務の執行を地方自治体に求め、結果として歳出を義務づけている現実を直視する必要がある。

国と地方の双方の努力で「基準財政需要額」への算入を縮減することは、自治体が自主的に「受益」と「負担」の関係を選択できる環境を整えるということでもある。

第三に、小さな町村の行政経費が割高になる場合に交付税測定単位を割り増す「段階補正」について、必要となる行政経費の差を反映するなど客観的に設定するよう求めたい。自治体が自主的に判断すべき市町村合併への“ムチ”として段階補正を縮減することは避けるべきだ。

市町村合併については、真の地方自治の担い手に相応しい規模となるよう誘導すべきだが、介護保険制度の運営やゴミ処理など広域的に取り組むべき分野に関しては、広域連合を組み合わせながら、地方の主体的な選択と判断に委ねるべきである。

肥満体から筋肉質への転換を

地方自治体が自らの選択で効率的な政策実施を進めていくためには、地方の行財政改革も併せて推進する必要がある。そのためには、まず自治体の施策や事業について、事前・事後の「政策評価」を全面的に実施すべきである。

また、住民への行政の説明責任(アカウンタビリティ)を果たし、住民の選択による行政サービスの実施を可能にするために、事業・施策の「政策評価」や行政サービスにかかるコストを明らかにする「行政コスト計算書」などの情報公開も積極的に実施していくべきである。

さらには、「民間にできることは、できるだけ民間に委ねる」との発想に立って、事業の一部を民間に託すアウトソーシングや、公共事業に民間の資金と経営ノウハウを導入し民間主導で実施するPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)の導入を積極的に進め、スリムな組織の実現を図るべきである。

地方交付税とともに地方財政を支える国庫補助負担金についても、地方の自立を促進する観点から早急に見直す必要がある。

国庫補助負担事業に関しては、道路、住宅・都市環境の整備、社会福祉などのナショナルミニマムの確保や、地方が自立していくための骨格となるインフラ整備を推進する観点から必要なものは実施すべきだが、その際、統合補助金化などを推進し、地方の自立を促進するよう配慮すべきであることは言うまでもない。

交付税制度改革の一環として議論されている地方自治体の自主財源の拡大と国・地方の税源配分の見直しについても積極的に進めるべきである。「自助と自律の精神」のもとで、地方財政を自治体が自らの判断と財源で行政サービスや地域づくりに取り組む仕組みにすることが、真の地方の自立につながるからだ。

なお、地方への税源委譲については、地方交付税改革の推進とともに、国の財政におけるプライマリーバランス(その年に返す借金と新たに調達する借金の収支尻)に留意しながら実現を図るべきである。

最後に、来年度の国債発行額を三〇兆円以内に抑制するという政府目標と、地方交付税制度改革との関係について触れておく。

小泉純一郎首相がこの目標を打ち出した直後に交付税制度改革が浮上したため、「交付税改革は、交付税を削減し、国の財政を再建することだけが目的」と誤解されがちだが、交付税の財源となっている所得税など国税五税の法定率分を削るわけではない。この点は論を待たない。

肥満体の地方財政を筋肉質に変えることで、来年度の「基準財政需要額」を仮に一兆円削減できれば、地方自治体が赤字地方債で穴埋めする三兆七〇〇〇億円のうち五〇〇〇億円分を縮減でき、併せて国の負担分五〇〇〇億円も縮減が可能となる。

小泉純一郎首相の言う地方交付税制度改革は、国のためだけの改革ではない。真の地方自治を確立するための改革である。決して「冷たい改革」ではなく、地方にとって「温かい改革」なのである。