衆議院議員 福島2区(郡山市、二本松市、本宮市、大玉村
掲載 : 東洋経済3月16日号「論点」
2002.03.12

脱デフレ日本経済サバイバルプラン

「脱デフレ早期健全化法案」を時限立法へ
大手銀行にデフレ織り込んだ予防的引き当てを

日本経済の現状は、デフレ不況が一段と深刻化、物価の下落と景気の悪化が連鎖的に進行する「デフレ・スパイラル」ともいえる厳しい状況に直面している。デフレからの脱却を図り、経済を持続的な成長軌道に復帰させることは喫緊の課題であり、不良債権処理など構造改革を実効あるものにするためにも、マクロ、ミクロ両面からの政策を総動員した包括的なデフレ対策の推進が求められている。

こうした中、自民党と政府が、不良債権処理の促進策や金融システムの安定化策などを盛り込んだ「総合デフレ対策」を相次ぎ決定。日銀も、長期国債の買い入れ増などの追加的な金融緩和策を決定し、デフレ脱却に向け政府と協調していく姿勢を打ち出した。

今回の対策を不十分と指摘する向きもあるが、「デフレ阻止と金融不安回避に大胆かつ柔軟に対処する」のが小泉政権の基本スタンスだ。小泉純一郎首相自身が公言しているように、デフレ対策は今回が最後ではない。2002年度予算が成立し次第、直ちに追加的な対策の検討に着手すべきであり、小泉首相のリーダーシップに期待したい。

その際、どこに重点を置いて検討を進めていくべきか。最も効果的な総合デフレ対策「脱デフレ日本経済サバイバルプラン」を提言する。

不良債権問題の本質とは

本題に入る前に、今なお議論に混乱がみられる不良債権問題を整理しておこう。

この問題の本質は何か。私は、「上場企業(大企業)問題」と考える。

小泉政権は、不良債権を放棄または売却し、金融機関のバランスシート(貸借対照表)から切り離すオフバランス化の推進を打ち出しているが、不良債権のオフバランス化は、倒産やリストラ、失業などの痛みを伴う“劇薬”でもあるので、その対象は産業再生に直結する企業向けの不良債権に絞り込む必要がある。

具体的には、経済の構造変化の過程で構造的・過剰な債務を抱え込み、日本の産業構造転換を遅らせている大企業で、株価が100円未満など市場の信任が著しく低下している上場企業(流通、ノンバンク、建設、不動産)が対象となろう。

オフバランス化の進め方については、国が「産業再生委員会」のような特別機関を設置し、再生すべき企業と整理・再編すべき企業を選別するよう主張する向きもあるが、自由主義経済のもとでは国の関与を最小限にとどめ、原則として市場原理に委ねるべきだ。

最近の事例をみても、大手スーパーのダイエーに対しては5200億円の追加的な金融支援を実施、準大手ゼネコンの佐藤工業の場合は金融支援を打ち切り、会社更生法の申請による法的整理を選択。金融庁の特別検査が金融機関の背中を強く押す形で、存続させる企業と整理・再編に移行する企業の仕分け作業が進展している。

なお、不良債権の時価買い取りと企業再生を促進する狙いから、昨秋の臨時国会で整理回収機構(RCC)の機能強化を柱とする改正金融再生法を議員立法で成立させており、積極的に活用すべきだ。ダイエーの例に見られるように、銀行主導の企業再生について市場の懸念を払拭できない場合、銀行から切り離し、市場信任回復型の企業再生を図る観点からRCCを活用する手もある。

金融機関への公的資金再注入の要否については、議論に混乱がみられるので、以下の3点に論点を明確化すべきである。

私なりに整理すれば、1つは、現時点では資本不足に陥っている大手銀行は見当たらず、資本の再注入が必要な状況には至っていないというもの(金融庁の主張)。

現在、金融庁が厳正な特別検査を実施中だが、検査の結果、資本不足に陥る金融機関が出てきた場合、総理大臣が金融機関の連鎖破綻や大規模な貸し渋り・貸し剥がしの発生などの金融危機(システミックリスク)が発生するおそれがあると認定すれば、預金保険法102条に基づいて公的資金による資本注入が行われる仕組みになっている。 2つ目は、株価100円以下の企業の状況から大手銀行は既に事実上の資本不足に陥っているから、資本再注入を急ぐべきであるという考え方だ(市場関係者や一部有力議員の主張)。特別検査の結果を待たずにこうした主張が展開される背景には、金融当局への拭いがたい不信感がある。

金融庁の「厳正な検査」も信頼できないというのであれば、金融庁と日銀が共同で金融検査を実施するのも一案。日銀は、日々のお金の動きをチェック、独自に「考査」を実施している。速水優総裁が官邸に乗り込み、小泉首相に公的資金の再注入を直談判するくらいだから、「共同検査」は日銀としても望むところだろう。

そして3つ目は、今後のデフレ要因をどう見込むかで、デフレ要因を織り込んだ大幅引き当てを前提に資本を再注入するというもの。デフレが進行する中では不良債権が絶えず新規発生するので、大手銀行にデフレ要因を織り込んだ特別引き当てを予防的に行わせ、その結果、金融機関が資本不足に陥れば公的資金を再注入する、という考え方だ。

時限立法で公的資金増強も

現行の金融検査マニュアルを含め、検査・監督の考え方からすれば、デフレ要因を織り込んだ予防的な引き当ては想定されていない。が、デフレに歯止めがかからず市場の不信感を払拭できないとすれば、デフレの進行を国民経済にとっての陥穽ととらえ、従来の行き掛かりにとらわれず思い切った対応を図るべきで、それには新規立法が必要となる。

たとえば「2年間」と期限を明示し、時限立法の形で「脱デフレ早期健全化法」(仮称)を制定。そして、(1)その間の不良債権の増加を先取りする形で金融機関が予防的に引き当てを積み増した結果、自己資本比率の悪化が見込まれる場合(2)風評などによる株価の乱高下などに対応するため、一層の自己資本の充実が必要な場合−−に、「総理大臣の承認」を受けた金融機関に対し、経営改善計画の提出などを条件に公的資金を再注入できるようにするのである。

あくまでも金融機関からの申請が前提だが、総理大臣は、「特に必要があると認める場合」には申請がなくても公的資金増強の認定をできるようにし、この場合の「総理大臣の認定」は資本注入を事実上強制する効果を持つことになる。

この関連で問題になるのが、経営者と株主の責任だが、後者のケースは経営陣の総退陣など責任を明確化する必要がある。が、たとえば「健全行」で、なおかつ公的資本増強と併せて一定の自己増資を図る金融機関に対しては、経営者の交代までは求めず、株主責任についても配当の制限にとどめてもいいのではないだろうか。

以上が、「脱デフレ早期健全化法」の概要である。デフレは未経験の領域であり、従来の「後追い・先送り型」ではなく、「先取り・先行型」の政策対応が求められる。

なお、4月1日からのペイオフの凍結解除を前に再延期を主張する向きもあるが、以下の理由からこれ以上の延期は必要ないと考える。

前述したように、金融危機が発生する恐れがあると総理大臣が認定すれば、預金保険法102条1項により金融機関の自己資本充実のために公的資金の注入が行われる。また同条2項により、破綻金融機関の預金の全額保護が図られるようになっており、ペイオフの再延期は内外の市場の不信感を増幅する恐れもある。

政府と自民党の総合デフレ対策では、中堅・中小企業対策の充実も図られたが、地域経済の再生という観点からなお一層の取り組みが求められる。

中小企業「金融」対策の拡充を

中小企業は、景気循環の影響を受けやすく、景気低迷期には、景気変動に起因する「摩擦的な不良債権」が増加する傾向にある。しかも、資産デフレで担保価値が下落した結果、金融機関の新規融資が受けにくくなり、業績回復を図ろうにも図れない状況にある。

にもかかわらず、金融庁の金融検査マニュアルは中小企業向け債権についても機械的・画一的に適用され、地域経済を支え生き残れるだけの力を持っている中小企業までをも破綻に追い込みかねないなど、地域経済に深刻な打撃を与える恐れがある。

この点は、早急に是正する必要があり、最も望ましいのは、中小企業や小規模・零細企業などの特性を踏まえた分かりやすい検査マニュアルを新たに策定することだ。

当面の策としては、政府の対策でも示されているように、現行の検査マニュアルに基づく債権分類の判断基準を明確化するための“判例集”の策定を急ぐ必要がある。

また、検査を受ける金融機関側も債務者区分や引き当て・償却について異論があれば、金融検査官と徹底的に協議すべきで、検査で一致をみなかった案件処理のために設けられている「意見申出制度」を大いに活用すべきである。

一方、金融がその機能を回復するまでの間、貸し渋りや貸し剥がしに喘ぐ中小企業に対し、信用補完制度の拡充・改善などの政策的な対応が必要。モラルハザードが起きぬよう留意しつつ、意欲ある中小企業の創業・経営革新を支援するとともに、連鎖破綻の回避や経営立て直しを支援するため、セーフティネットの一層の充実を図る必要がある。

政府や自民党の対策には、中小企業に円滑に資金を供給するための具体的な政策支援の手段として、創業者向け保証制度や昨年11月に創設された売掛債権担保融資に対する公的保証制度などの積極活用、金融安定化特別保証制度(特別保証30兆円枠、昨年3月末で廃止)の返済条件の変更などが盛り込まれた。

いずれも、中小企業「金融」対策としてかなりの効力を持つと期待されるが、モラルハザードの回避策を設けることを条件に特別保証制度の再開も検討すべきだろう。

起業により雇用吸収力のある新規企業が続々誕生することも重要だが、中小企業分野における産業再生の最大の眼目は、潜在能力を持ちやる気のある既存の中小企業が頑張って再生を果たすことだ。淘汰されるべき企業の処理は市場原理に委ねることで解決できよう。

マクロ政策も大胆に

構造改革を推進し、民間の持続的な需要を創出する環境を整えるためには、マクロ政策のさらなる展開も必要だ。

資産デフレ是正の観点から土地対策と証券市場活性化策を実施。土地対策では、土地流動化を促進する観点から登録免許税や不動産取得税など土地取引に係る税を軽減、また所有負担を緩和するための固定資産税の軽減、住宅取得贈与に関する特例措置の大幅拡充などの税制面での支援策に加え、都市再生新法の制定による「マンハッタン化」の推進と併せ、容積率・建蔽率を大幅に緩和すべきである。

証券市場活性策としては、証券税制の簡素化のほか、個人金融資産を呼び込むために株式取得の贈与や相続に関する特例措置の導入、投資優遇税制などを講じるべきである。税制については、2002年度予算の成立後、直ちに抜本的な見直し作業に着手する方針だが、デフレ対策に効果が見込める税制に関しては先行実施を考えてもいいのではないか。

一方、金融・財政政策では、一層の量的緩和策が重要。日銀は、自分の庭先だけを掃き清める近視眼的な政策を改め、物価安定目標(プライスレベル・ターゲティング)の設定など、政府と一体となってデフレ退治に全力をあげるべきである。

年度内に解禁される業種別の株価指数連動型上場投資信託(ETF)を日銀が購入するのも一案。銀行等保有株式取得機構が組成するETFの日銀買い入れは、信用秩序の維持という日銀の使命とも合致する。

また、市中への資金供給策の一環として、財投資金を積極活用。「民」を補完する立場として、政府系金融機関が「目利き機能」を発揮し、今こそ本来の役割を果たすべきだ。

財政についても、脱デフレ総動員の観点から、財政規律を逸脱しない範囲で効果的な需要創出策を講じる必要がある。前述した住宅取得贈与に関する特例措置の大幅拡充や、株式取得の贈与・相続に関する特例措置の導入などの政策減税を「2年間」と期限を設けて実施すれば、国の税収にも影響を与えずに済み、「国債新規発行30兆円以内」の精神も守ることができる。結果として財政規律を保てるはずである。

このほか、企業の国際競争力強化のため、研究開発促進税制の拡充や戦略的技術の産業化支援などの技術開発支援も積極的に推進すべきだ。