衆議院議員 福島2区(郡山市、二本松市、本宮市、大玉村
掲載 : 「金融ビジネス」2002年1月号
2001.12.03

与党専門家が見た不良債権最終処理

不良債権問題解決の“切り札”として期待されている整理回収機構(RCC)の機能を強化するための金融再生法改正案が国会に提出され、大手銀行に対する金融庁の特別検査もスタートした。これにより、不良化した債権を放棄または売却し、銀行のバランスシート(貸借対照表)から切り離す「オフバランス化」への取り組みがようやく本格化することになる。

不良債権問題の解決には「金融の再生」と「産業の再生」が不可欠で、オフバランス化の推進は、単に銀行の財務内容の健全化を図るだけでなく、その過程で借り手企業の整理・合理化が進展、産業の構造転換にも資することとなる。

その上で、今後、オフバランス化政策を進めていく上で留意すべき点を二点挙げておきたい。

麻痺した「目利き機能」、適切な公的補間が必要

一つは、不良債権には、(1)景気変動に起因する「摩擦的な不良債権」(2)経済の構造変化に起因する「構造的な不良債権」−−の「二つの不良債権」があり、これらを区別して考える必要があるという点だ。

三年前、私たちが不良債権問題に本格的に取り組み始めた際、その対象として念頭にあったのは「不動産投機などバブルに踊り、過剰な債務を抱えた企業の不良債権」だった。

しかし、当時の不良債権(破綻懸念先以下)の約八割は処理済み。現在の不良債権の多くは、その後、本業の不振などに起因して生じた「摩擦的な不良債権」である。

一方、オフバランス化の対象とすべき不良債権は、産業再生のデッドロックとなっている企業に係る不良債権で、オフバランス化政策を進める上でこの「二つの不良債権」を分けて考える必要がある。

なお、「不良債権問題は大手三十社問題」に関する議論も、基本的にはこうした視点に立つもので、「過剰な債務を抱え、余剰な人的・物的資源を抱え込み、日本の産業構造転換を阻害している企業」を「大手三十社」という表現に置き換えているにすぎない。

不良債権のオフバランス化は、失業の増大などの痛みを伴う「劇薬」である。ターゲットを絞らず進めていけば、産業再生とは直接関係のない多数の中小企業がその対象となり、失業の増大などと相俟ってオフバランス化政策に対する批判が噴き出しかねない。

そこで、バブルの後遺症で過大な債務や設備を抱え市場全体に大きな影響を及ぼしている企業にターゲットを絞り、これを起爆剤として後は市場原理に委ねる形で産業の再生を図っていくことが最も適切な政策である。

もう一つは、(銀行によって幅があるが)銀行の審査機能が著しく低下しているという点だ。

最近、オフバランス化政策の対象とすべき企業とは必ずしも言えない地方の地場産業への新規融資を抑制する傾向が顕著になっているが、こうした問題は、銀行に「良い融資案件」と「悪い融資案件」をきちんと仕分けできる、いわゆる「目利き機能」がしっかりしていれば生じないのである。

仮に、貸出先が赤字でも、それが一時的なもので将来的に成長する見込みが高ければ、不良債権に分類する必要はない。たとえ不良債権に分類せざるを得なくなったとしても、株主に対しても世論に対しても十分に説明ができるはずである。

中小企業のある経営者から聞いた話だが、下請け企業の資金繰りを助けるため代金の支払いを早めようと、取引銀行に与信枠拡大を申し入れたところ、その銀行はちょうど金融庁の検査を受けていた時で、「下請けへの支払いを急ぐことはない」と拒否されたという。

こうした事案について金融庁は、「検査マニュアルを理由に、健全な営業を営む融資先への融資拒否などの不適切な取り扱いをしないように」と指導しており、この銀行の対応には疑問符が付く。

銀行が、「目利き機能」を適切に発揮できれば、貸出を行うべき先に対し消極的になる必要はないし、ひいては産業の構造転換にも資する。金融機能の強化は、真の「金融再生」「産業再生」に不可欠な条件なのである。

金融機能の強化そのものは、私企業である銀行の経営能力の向上にほかならず、銀行が自ら努力すべき問題だが、不良債権の最終処理を進めていく上で、以下の点は正しく認識しておく必要がある。

それは、「銀行がその機能を果たす以上、新規の不良債権は常に発生する」ということで、これを無視した政策運営を行えば、金融機能は低下しかねない。不良債権処理の大前提である貸出債権に対する「厳しい自己査定」と「厳格な引当」も、これを強調しすぎると、新規融資などに対する銀行の姿勢を過度に慎重なものにさせる恐れがある。

不良債権問題を抜本的に解決するためには、「金融の再生」と「産業の再生」をセットで進めていく必要がある。その際、「産業の再生」のもう一つの課題である「新産業の創出」に取り組む上で、リスクマネーの供給は必要不可欠であり、銀行はこうした役目も担う必要がある。銀行の財務内容の健全化に偏りすぎた政策運営は、真の「金融再生」と「産業再生」に悪影響を及ぼしかねないことに留意すべきである。

ただ、そうは言っても、現時点で銀行の「目利き機能」が全くといっていいほど発揮されていない以上、これを政策的に補完する必要がある。

この点については経済産業省が、売掛債権を担保とする中小企業向け融資に公的保証を付ける新制度を導入する方針を打ち出している。販売済み商品の未回収代金である売掛債権に公的な保証が付けば、貸倒リスクがなくなるので、銀行も担保として受け入れやすくなる。

ほかにも、物的担保を取らず、事業計画を審査して創業者に迅速に融資を行う創業融資制度の拡充なども図られる見通しだ。

小泉内閣が特殊法人改革に取り組んでいる時でもあり、こうした公的補完が民業を圧迫するような事態は絶対に避けるべきだが、構造改革を推進していく上で、ターゲットを的確に絞った適切な公的補完はむしろ必要である。

構造改革に一石投じた「サバイバルプラン」

自民党は三年前、不良債権化した担保不動産の流動化を促す方策(「土地・債権流動化トータルプラン」)と、金融システム再生の政策スキーム(「金融再生トータルプラン」)を策定。直後の「金融国会」で金融再生法と金融機能早期健全化法を成立させ、日本長期信用銀行と日本債券信用銀行を国有化方式で破綻処理する一方で、大手銀行に公的資金を注入、危機をひとまず封じ込めた。

私たちは、「土地・債権流動化トータルプラン」で、サービサー(債権回収専門業者)業務の開放や共同債権買取機構の拡充、特別目的会社(SPC)法の制定、再建型倒産法制の整備などを提言。また、「金融再生トータルプラン」では、公表不良債権の公表と適正な償却・引き当て、金融検査・監督行政の強化、破綻処理スキームの確立などの方針を打ち出し、日本経済の再生に必要な処方箋の八割は示すことができたと考えている。

あとは銀行が粛々と不良債権を処理していくだけだったのだが、景気回復を最優先する小渕・森内閣の総需要政策が、資本注入で一息ついた銀行のモラルハザードを助長、不良債権の抜本的な処理を先送りさせる結果となった。この2年余に及ぶ「空白」は大きい。その間に銀行が不良債権の抜本処理を進めたら、今日の危機的状況を招くこともなかったはずだ。

しかし、こうした先送り策は限界に近づいており、事態のさらなる悪化をこのまま座視するわけにはいかない。「土地・債権流動化トータルプラン」、「金融再生トータルプラン」に続く、日本経済の再生に向けた総合戦略のファイナルステージづくりに着手する必要がある。

そう思い立った私と同僚の石原伸晃氏(現行政改革担当相)は、森内閣の退陣が秒読み段階に入った今年春、不良債権の実態解明、土地・債権のさらなる流動化、金融システムの再生、産業の再生、資産デフレの是正などの施策を総合的に網羅した戦略をまとめ上げた。

それが、「日本経済サバイバルプラン−負の連鎖を断ち切るために−」で、まず不良債権の実態に対する信認を回復するため要注意先債権への厳正な債務者区分と引き当ての実施を提言。また、不良債権のオフバランス化を推進するために、「土地・債権流動化トータルプラン」で実現したサービサー法の改正や、不良債権の整理・回収業務を手がけるRCCの機能強化などを提言した。

一方、非製造業を中心とした債務超過企業群のある産業の再生を進めていくために、民事再生法など企業再建に関する法制度や産業再生法の拡充・活用、産業の再生と優良企業の再生を推進する「産業再生委員会」の創設などを提言。さらには、都市の再生と資産デフレの是正という課題に取り組むために、不動産の証券化を後押しするサバイバルファンドの創設や資産担保証券(ABS)市場の育成、時限的かつ大胆な不動産流通課税の減免、大都市の再生を強力に推進するメトロポリタン創生会議の設置などを提言した。

このサバイバルプランは、私と石原氏の合作による私的提言の域にとどまったが、小泉内閣の下で幾つかの施策については具体化の作業が進んでいる。

まず不良債権処理問題では、「改革先行プログラム」にRCCの機能強化や、市場の評価に大きな変化が生じている企業に着目した特別検査の実施、回収に注意を要する要注意先債権への適切な引き当てなどの方針が盛り込まれた。

このうち、RCCの機能強化については、(1)RCCが健全な金融機関から買い取る不良債権の価格を「時価」とする、(2)買い取りから処分までの期限を可能な限り三年をめどとして処分を行うよう努める、(3)企業の再生を促す「企業再建ファンド」を創設する、ことで与党三党の合意が成立。金融再生法改正案を議員立法の形で今国会に提出した。

要注意先を対象とした大手銀行に対する金融庁の特別検査も既にスタート。同庁は、株価や格付けなど市場の評価が著しく下がっている大口融資先で、不良債権と判明したケースについては早急に処理するよう指導する方針を決めており、過剰債務を抱える大企業の淘汰や再編が進むものと期待されている。

また、安易な債権放棄によるモラルハザードを防ぐ狙いから、債権放棄について厳格なルールを設けるよう提言したが、その後、全国銀行協会や経団連などが「私的整理に関するガイドライン(指針)研究会」を発足させ、厳格な再建計画の策定を含む「私的整理のガイドライン」を策定した。

不良債権処理の期待も込められた不動産投資信託(日本版REIT)の取り引きも九月にスタート。株式相場に対する投資家心理が悪化する中、比較的高い配当利回りを期待する機関投資家の関心が集まっており、日本版REITを中心とする不動産証券化市場の規模は「今後十年間で十兆円規模に育つ」と見込まれている。

このほか、資産デフレ対策として、土地税制を思い切って軽減・緩和する必要があり、日銀の量的緩和が需要を支えていくことになろう。また、株式市場の構造改革も急務で、証券税制改革を実施し、個人投資家が安心して参入できる環境を整えることとした。

前述したようにサバイバルプランは、抜本的な不良債権処理のファイナルステージの処方箋を示したもので、日本経済を再生させるには絶対に避けて通れない道である。

与党の緊急経済対策の対案として提示したという事情もあって、党内では殆ど無視された。しかし、週刊誌や新聞がこの政策提言に関心を示し、テレビ出演でサバイバルプランを解説する機会も得られた。マスコミを通じて不良債権問題を巡る論議に一石を投じることができたし、プラン作成の過程で議論した官僚たちのその後の政策形成にある程度影響力を行使できたのではないかと考えている。

安易な資本再注入とペイオフ再延期に反対

最後に、公的資金の再注入論とペイオフの再延期論について触れておきたい。

貸倒引当金の積み増しや最終処理の結果、自己資本不足に陥った銀行に公的資金を再注入すべきと主張する向きがあるが、銀行のモラルハザードを招きかねないだけに、安易な資本注入は避けるべきだ。基本的には、早期是正措置を発動し、自力での経営立て直しを求めるべきで、仮にシステミックリスク回避以外の再注入ということであれば、不良債権の厳格な引き当てを前提に、経営責任の明確化などとセットで措置を講じる必要がある。

一方、ペイオフの再延期論は、中小の金融機関に配慮した議論だが、三年前にペイオフの「二〇〇一年四月凍結解除」を前提に金融システムの再生や早期健全のスキームを用意し、自己責任で構造改革を進めていくことにしていたのだから、これ以上の延期は考えるべきではない。

再延期ということになれば、我が国自身が世界から信頼を失いかねず、金利の上昇や為替などへの悪影響も懸念される。

米国の例を見ても、銀行破綻で実際にペイオフの適用を受けたケースはごくわずか。あまり過敏にならないほうがいい。